アメリカで働く日本人会計士の仕事とは。-②日系サービスグループで働くことのメリットとデメリット

今回は前回の続き、日本人がアメリカで会計士として働く場合、日系サービスグループとして働くことのメリットとデメリットを紹介します。

実際の働き方エピソードなども交えて紹介しますので、イメージを持ちながらお読みいただければ幸いです。

もしまだ第一回の記事を読まれていない方は:
アメリカで働く日本人会計士の仕事とは。-①どんな人とどんな仕事をするのか紹介します。
まずはこちらから読んでいただき背景を理解していただければよりイメージがつきやすいです。

前提:海外で日系サービスグループで働く、とは

まずは前提です。

海外で日系サービスグループで働く、ということは、アメリカに居ながら日本企業の監査対応をすること、を意味します。

会計士の駐在・海外派遣後に何をするか、なんて知っている人はとても限られたメンバーだと思いますが、日本の監査法人から海外のBig4への出向者は90%以上がこの役割(=日系企業対応)で派遣されています。

特に、収益責任を持っている”駐在員”は、100%日系企業対応を行う、と言っても過言ではないでしょう。”研修生”は経験として日系以外のチームに入ることも多々あります。

したがって、アメリカで働いている日本人会計士が現地の上場企業対応の責任者をやっている、というのは非常に稀です。

つまり、仕事はアメリカに行ったとしてもロンドンに行ったとしても上海に行ったとしても基本は日系企業のコーディネートがメインになってきます。

そんな日系サービス担当者として働くことのメリット・デメリットを見ていきましょう。

日系サービスグループで働くメリット

メリット1: 日本人であるということがアドバンテージになる

対外的に、まずバリューを出しやすいというわかりやすいメリットがあげられます。

クライアントも英語はもちろんしゃべれますが、「英語のわかる日本人」が親会社や親監査チームとうまくコミュニケーションをとりながら、現地メンバーとは英語でやりとりして問題解決していく、ということ自体が付加価値になるという特殊な環境がこのサービスグループです。

そこには単なる言語の壁だけではなく、親会社の承認プロセスや日本企業ならではの内部のお伺いをたてていくプロセスなど、文化の壁もあります

異国の中でこの壁を取り除く手伝いができるのは日本人同士の信頼関係があってこその、非常に恵まれた環境であるでしょう。

 

これに関連し、自己成長面でもメリットがあります。

もし将来、アメリカに残ってずっとアメリカ企業の対応をしたいならメリットといえるかは微妙です。

一方、アメリカの経験を活かし「英語とアメリカの文化がわかる日本人」として働きたいのならば、大きなメリットになります。

どれだけ英語を勉強しようと、やはり日本人にとって英語は第二外国語で文化も異なりますし、われわれはアメリカ人にはなれません

目指す先が「英語とアメリカの文化がわかる日本人」なら、このような言語と文化の壁を取り除いたという経験は、これ以上ない財産になります。

メリット1: 日本人であるということがアドバンテージになる!
→会計監査という共通言語を使いながら、言葉と文化の壁を取り除くという唯一無二の環境での仕事ができる。

メリット2: 日本帰国を想定すると転職に有利

第二に、日本帰国を想定すると転職有利です。

ここで得られる日系米国子会社の監査対応経験を通じて、海外マネジメント能力がついてくるため、です。

子会社監査というものは想像以上に簡単には完結しません。

子会社という立場上、意思決定が現地で解決しないため、非常に多くの関係者の主張や思惑を取りまとめてどの場所でも炎上しないように細心の注意を払い、人を巻き込んで進めるソフトスキルが必要になります。

主な関連者は以下です:

・米国子会社の人々(マネジメント+アメリカ人実務担当者)
・米国Big4内部でのチームメンバー(米人パートナーからインド人スタッフまで)
・日本の親会社の担当者ないしマネジメント
・日本の親会社の監査人

実際私の元同僚は、アメリカでのシニアマネージャー経験5年以上、で帰国し転職登録したところ年収2000万円~3000万円の案件がごろごろ舞い込んできたとのこと。期待役割は海外子会社で炎上しているところに入っていけるリーダーシップ及び炎上させないプロマネ/ソフトスキルです。

もちろんチャレンジングだとは思いますが、米国で監査をしているとそんな案件は珍しくないため、市場価値につながりやすい仕事・経験ができると言えます。

実際の求人はこちらでも見れます。私の元同僚もこれを使って転職していましたが、管理部門特化ということで安心感があります。
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メリット2: 日本で転職有利になる!
→日本から海外子会社を管理してリーダーシップを出せる人、炎上しないように気の利いたマネジメントができる人材になれる。

メリット3: 複数ジョブをマネジメントする力が身につく

第三に、複数ジョブをマネジメントする力が身に付きます。

・・・というかやらざるを得ない環境に追い込まれます。

日系サービスグループではクライアントが小粒で数が多くなる半面、日本語対応できる役職者の数は通常限られています。

したがって、一人で数社同時に決算対応を走らせるなんてことも日常です。

対クライアントや対チーム内で必要なタイミングでコミュニケーションをとったり、期日や損益の管理をしたりと、重要なポイントをおさえるマネジメントをしないと回らなくなります

日本の監査時代を振り返ると、私を含めて海外に来るような人は大体1社のビッグクライアントに専属で対応しているようなケースが多いので、このような経験を一度しておくのは非常にプラスです。

メリット3: 複数ジョブをマネジメントする力が身につく!
→日本にいたときにはできなかった小規模ジョブを複数回す、という経験ができる。
また、米国ならではのシビアな損益管理も学ぶことができる。

日系サービスグループで働くデメリット

さて、我々出向者にはあまり関係しないのですが、一応デメリットも示しておきます。

ここでのデメリットは、アメリカで働くことを前提として、PCAOBチームではなく日系に入ることのデメリット、ととらえてください。

(したがって、現地採用になる日本人向け、というのが正しいです。)

デメリット1: 上場企業対応ではない

大きなデメリットとして、日系子会社対応であるため直接的には上場企業監査ではありません。

したがって、監査基準やドキュメントレベルもPCAOB対応レベルではなく最低限のAICPA基準レベルです。本場の規制対応が必要になる人はあまり多くはないと思いますが、その違いは理解しておいた方がよいです。

また、上場企業ではないため開示書類の作成(10-Kや10-Q)は無く、親会社向けのレポーティングパッケージの監査対応がメインです。(開示書類については次の記事で解説してます:[第1回] Uber 四半期決算に学ぶ、開示のつながりとポイント(2019年6月Q2最新版) – 半期で5000億円以上の赤字の中身とは –

したがって、開示実務経験を積みたいならば別途違うエンゲージメントに入る必要があります。

デメリット2: 経費や報酬の予算が低め

働いている中で、予算をデメリットとして考えることはたまにあります。

規制の厳しいPCAOBジョブはそもそもチャージレートの単価が倍ほどだったりして、報酬規模はものすごく大きく、多少の不能率は吸収可能です。

また、実はアメリカでは残業手当がない分、夕食やタクシー代、チーム内の打ち上げなどを経費で処理可能です(ジョブの損益にチャージします)。

日系グループは一人20ドルくらいのものを出前で食べている一方で、PCAOBチームはステーキを食べにいって・・・なんてこともまああります。

損益を管理する側としては、かなり厳格に管理しないと損益がすぐ赤字化するジョブが多いため、そういう意味でシビアではあります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

メリットを見ていただければお分かりのとおり、アメリカでは「マネジメント力」や「ソフトスキル」が日本よりもさらに重視されています

日本の会計士というと、ごりごりに会計基準も税法も勉強して、「仕訳の質問ならなんでも来い」というような人が多いですが、アメリカでは試験制度の違いもあり「基準は調べればOK」という感じです。

監査というフィールドに居ながら、自分のマネジメント力やソフトスキルと向き合い、英語で課題解決をしていくという経験は、海外で働く会計士ならではの経験かと思います。私もまだまだ日々反省してます、しっかり自分の武器にしていきたいですね。

次回からも、しばらくアメリカで働く日本人会計士に関連して解説していきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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