会計士の就職難を心配すべきか。歴史とビジネスモデルから、2020年の監査法人就職事情の予測。【実は不況に強い】

コロナウイルスの影響で、世界中の多くの方の雇用が失われるというニュースが多くみられるようになり、今回は会計士の今後の雇用予測について記事にしたいと思います。

なお少し趣旨は違いますが、年末の日経新聞で監査法人の人手不足として以下のように紹介されていました。

監査法人、人手不足が深刻 東芝不正会計後に業務増大 2019/12/7

企業会計に目を光らせ「市場の番人」と呼ばれる監査法人が深刻な人手不足に直面している。東芝の不正会計をきっかけに監査徹底を求められ、現場の業務量が増大。厳しい労働環境に嫌気が差し監査法人を辞める若手会計士が相次いでいる。会計士の希望者も減っている。監査法人の疲弊は市場のインフラ機能を脆弱にし、日本経済の足元を揺るがしかねない。

出典:日本経済新聞電子版より

実は上記の日経状況について、2019年では正しかったのですが、コロナ不況を受けてかなり状況が変わってきています。単にネガティブにとらえてしまうと正しい理解から離れて行ってしまうので、以下で業界の特性を理解していきましょう。

監査というビジネスが不況の影響をどの程度受けるか

さて、まずは監査というビジネスがどの程度世間の不況を受けるのかという点を理解する必要があります。

結論から言ってしまえば、実は監査というビジネスは不況の影響を受けにくいものです。

不景気において売り上げが下がることはない?
監査報酬は基本下がりません。監査報酬へクライアントからの値下げ要求はもちろんありますが、現実的には据え置きとなるケースがほとんどです。
なぜならクライアントの業績が悪化するとより監査上の手間とコストがかかり、監査法人は「本当は増額したいところだけどクライアントの業績も苦しいので前年と同じで」という前提で交渉を進めるためです。
またこのような報酬交渉が成り立つのは、
①クライアントの好調時に監査報酬を増額しているわけではないこと、
②クライアント側も監査法人変更の手間とコストをかけたくないため長期的な契約関係であること、
という暗黙の了解があるためです。
一方、IFRS導入アドバイザリーなどの一時的なコンサルティング業務は落ち込む可能性が高いです

不況期に監査の手間がかかる点を補足します。
まず業績悪化により、減損損失の検討をはじめとする追加検討事項の発生が最もイメージしやすいかと思います。
実務的に一番影響が大きいのは、重要性の基準値(監査手続きをする上で検討対象とするかどうかの基準値のようなもの)が小さくなり手続きや検証範囲を増やさざるを得なくなる、という点です。

一方、監査法人という組織自体は人を使ったサービス業ですので、人を多く抱えており固定費が多く発生する体質です。

ただ、上記のように不況期にも売上が下がりにくい特徴があることから、実は急な売り上げ減やそれに伴う人員削減というのはあまり起こりえないビジネスモデルになっています。

ポイント:監査は固定的な契約であり、報酬額は好景気時に大きく上がることもなければ、不景気時に大きく下がることもない。結果、不景気に強いビジネスモデルとなっている。

 試験合格者数の推移と10年間の就職状況の振り返り

次に、直近10年間の試験合格者数と就職状況を振り返りましょう。
以下のグラフをご覧ください。

会計士試験合格者数のグラフ2010-2020

では解説していきます。

試験合格者数の推移

試験受験者数は、2010年~2012年ごろの合格者就職難を受けて激減しましたが、2015年以降増加を続けています。これは監査法人の採用活動が超売り手市場に転じ、就職難問題が完全に解消されたことによるものと考えられます。

結果、合格者数はここ10年間増減はあるものの、おおむね1100~1500人ほどのレンジで推移しており、特に直近だと2015年以降受験者数・合格者数ともに連続で増加しています

2020年の結果はもちろんまだわかりませんが、ここ数年の推移をみる限り、1350人程度の合格者数で落ち着くのではという筆者予測に基づきグラフに数値を入れています。試験合格者数は、日本の一般的な景気動向にあまり左右されるものではなく、会計士協会と金融庁の方針によるところが大きいです。(例:2007年ごろの会計士増加計画)

就職状況の推移

10年前というと、ちょうど新日本とトーマツが早期大量退職プログラムを実行して各400人規模のリストラを実施した年です。

監査法人のリストラは2007年と2008年の大量合格・大量採用の反省という、非常に特殊な業界固有事情によるもので、世間の不景気(リーマンショックの後遺症、震災)などはあまり関係がありませんでした。
2007年と2008年は、当時日本で導入された四半期レビューとJSOX(内部統制監査)による特需対応で各ファームが非常に潤っていた時代で、とにかく大量の人材を各ファームが取り合っていましたが、実際これらの特需が落ち着いたあとはこれらが余剰人員になってしまったという背景があります。

その後2~3年買い手市場が続き、2011年ごろは会計士試験合格者の未就職問題が世間をにぎわすようになっていました。

また、採用を数年絞った監査法人側で人が足らなくなり超売り手市場と言われていたのは2014年ごろ~2017年ごろで、さらにちょうど東芝の不適切会計問題が起こり、監査の品質向上要求にこたえるべく作業が大幅に増え、人手不足に拍車がかかりました。

この当時は合格発表前から各法人がリクルーターに予算を与え、受験生たちを非公式に食事に誘って、事前囲い込みをしていたほどです。ある法人は一人確保するごとにリクルーターへインセンティブがあったという噂。
(いずれも今もどこかこっそりやっているかもしれませんが・・・。)

 

2018年ごろには、2014年ごろからの採用者も十分育ってきて人手不足感が薄れた結果一時期のような超売り手市場ではなくなりましたが、過去の大量採用大量退職の反省から各ファームは安定的な定期採用に力を入れており、依然として人材需要は底堅くあります。

ポイント:受験者数・合格者数は数年連続増加。監査法人の人材需要は一時期の過熱感は収まったが、依然安定的な定期採用はなされる見込み。

2020年はコロナの影響はマイナスでは?

さて、では2020年の就職状況予測です。

コロナウィルスの影響が外出が自粛され景気が悪化すると、採用活動に対してはマイナスの影響が出てきます。私の知る限り、定期採用以外の採用活動は現在かなり少なくなっているようです。

一方先ほども記載した通り、コロナウイルスの危機下においても定期採用は一定数継続されることが見込まれています。大きな要因は以下の2つです:

・監査法人は2010年~2012年ごろに急に採用を絞り人材構成バランスをいびつにしてしまった反省があるので、急に採用を絞ることを避けようとしています。
・監査という仕事は、在宅でもあまり問題が生じないビジネスモデルです。(参考:日本より進んでいる!アメリカのアカウンティングファームのリモートワーク最新事情。

 

まとめとポイント:監査法人は、一度採用されてしまえば不況に強く、かつ在宅からでも仕事ができるビジネスモデルです。将来に不安がある方もまだまだ目指す価値はあります。
・受験生の方は余計な心配はせず、勉強を頑張ってください。
・これから受けようか悩んでいる方は、以下のリンクでも業界のことを紹介しているのでぜひ:
会計士試験・業界に興味をお持ちの方向け記事の一覧表(年収や試験勉強、海外での働き方など)

 おわりに

いかがでしたでしょうか。

ここ10年は非常に業界の動きが激しかったので、2020年の予測を立てるとともに私が見てきた情報をまとめました。

一般的に資格試験は不況時に人気が高まるといわれていますが、会計監査という業界は不況に対して強いビジネスモデルなので、あながちその選択は間違いではないと考えています。

しっかりと準備をした受験生には就職の道が開けるので、まずは試験に合格することに専念して頑張ってください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

最新情報をチェックしよう!