IFRS9 金融商品 日米とのGAAP差や改正点から学ぶ、わかりやすい概要と開示のポイント (IFRS7)

変更2:金融資産評価の考え方の変更(現在予想信用損失アプローチ:CECLモデル)

ここはいわゆる貸倒損失や貸倒引当金をイメージしていただきたいところですが、債権の評価に対する考え方が変更となっています。

従来のIAS39での考え方

従来のIAS39では「発生損失モデル」という考え方が採用され、端的に言えば実績に重きを置き、「減損の客観的証拠がある範囲でのみの認識を行う」、という考え方でした。

実務的には過去の貸倒実績率を用いて計算していることもあるようですが、原則的にはこのような一般引当ではなく、個別に検討すべきと考えられているようです。

新しいIFRS9での考え方

IFRS9では「現在予想信用損失アプローチ」という考え方が採用され、客観的・具体的な信用損失が発生する前に損失引当金を認識することが考え方のベースとなっています。

現在予想信用損失アプローチは邦訳で、むしろ英語名称であるCECLモデル(Current Expected Credit Loss )の方が馴染みがある方が多いかもしれません。余談ですが、アメリカ人たちのCECLの読み方(発音)は、「シーソーモデル」とか「シーセルモデル」と聞こえます。ただ、CECLというとUSGAAPを示し、アメリカではIFRS9とは区別しています。

「資産ステージの分類」が必要になるところがこの考え方が厄介な点ですので、以下で簡単にまとめます。

資産ステージと評価方法 ①: 一般的アプローチ(長期貸付金などのケース)

まずIFRS9では信用リスクを考える際に、実質的に以下の3つのグループに分類されます。

Stage 1: 当初認識以降信用リスクが著しく増大していない(IFRS9. 5.5.5
Stage 2: 当初認識以降信用リスクが著しく増大した (IFRS9. 5.5.3)
Stage 3: 信用減損している(IFRS9. 5.4.1(b))

 

一般的アプローチとは原則的な予想信用損失アプローチの適用方法であり、上記の3区分に対して以下のように異なる予想損失計算方法を行います。

Stage 1→ 12か月分の予想信用損失を測定
Stage 2→全期間の予想信用損失を測定
Stage 3→全期間の予想信用損失を測定(Stage 2との違いは金利収益の計算方法にて。IFRS9. 5.4.1(b)参照)

 

長期貸付金をイメージするとわかりやすいのですが、
何もなければStage 1として期末から12か月分の回収分に予想される不履行のみを信用損失として認識し、
債務者が倒産しそうなどの状況になればStage 2として長期貸付金の将来回収全期間から予想される不履行を測定します。

資産ステージと評価方法 ②: 単純化したアプローチ(営業債権(売掛金)等のケース)

多くの企業がイメージするのは長期貸付金の評価よりも身近な売掛金等の評価、いわゆる貸倒引当金かと思いますが、実はIFRS9では上記の①一般的なアプローチに売掛金などの営業債権を含めず、以下の「単純化したアプローチ」で整理することを求めています。

単純化したアプローチでは信用リスクの増大に応じたStage判別は不要で、いずれの場合においても全期間の予想信用損失を強制的に認識することになります(IFRS9. 5.5.15)。

趣旨としては、通常営業債権は1年以内に回収期間が来ることから、12か月評価であっても全期間評価であっても結果は変わらず、であれば「債務者の信用リスクの増大を把握する」という作業は必要ない、というものです。

この単純化したアプローチが適用される債権の判定にあたっては収益認識基準であるIFRS15(62及び63項)を参照する必要がありますが、重要なのは売上から1年以内に回収されるような通常の売掛金はStage分類を経ずに単純化したアプローチで処理される、というところです。

つまり、会社としては①単純化したアプローチを適用する債権、②Stage1の債権、③Stage2の債権、④Stage4の債権の4つに分類を行ったうえで、これらの分類ごとの開示を行っていくこととなります。

これらが具体的に影響を及ぼす開示は、
①上記4区分ごとの貸倒引当金の増減及びその理由の開示(IFRS7.35H)
②上記4区分ごとの最大エクスポージャー(≒簿価)の開示(IFRS7.35M)

の箇所で区分ごとの数値情報が開示されるほか、会計方針の開示において区分の説明を行うことになります(IFRS7. 21)。

したがって、実務上は各子会社からこのような区分別の情報を入手できるよう、レポーティングパッケージの改正及び事前説明が不可欠です。

(信用リスク評価)日本とIFRSの主なGAAP差

日本の貸倒引当金実務は「金融商品に関する会計基準」27項にしたがって、以下のように分類されます。

貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、債権を次のように区分する。

(1) 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権(以下「一般債権」という。)
(2) 経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権(以下「貸倒懸念債権」という。)
(3) 経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権(以下「破産更生債権等」という。)

分類だけ見るとIFRSのステージ分けと近く、数値の結果としてはあまり変わらないような印象です。

一方、IFRS9では、

引当の見積もりにあたって将来損失を見積もるためのアプローチとしてのStage分け、そのための信用リスク増加有無の把握を要求している点、

②日本基準でいうところの「(1)一般債権」が、Stage1のもの単純化アプローチが適用されるものの二つ存在する点、

など、その枠組み面では大きく異なっていることから、会計実務上はこのあたりをきちんと会社ごとの実務に落とし込むことが重要になります。

(信用リスク評価)IFRS9とUSGAAPとの主なGAAP差

USGAAPでも従来のASC310-10での規定から、「ASC326 金融商品 – 信用損失」へと改正が行われており、こちらは2019年12月16日以降開始する年度からSEC登録企業へ適用され、翌年度の適用予定となっています。

基本的な考え方はIAS39→IFRS9の改正と同様、発生損失モデルから現在予想信用損失モデルへの改正となります。

つまりUSGAAPでもIFRSと同様、旧基準では減損の発生可能性が高い場合にのみ引当計上していましたが、新基準適用後は現行に比べてより早期に信用損失の計上が求められることになります。

一方、新米国基準ではIFRS9で採用されている①12か月の信用損失、②全期間の信用損失、を使い分けるアプローチを採用しておらず、常に契約期間にわたるすべての信用損失を認識する点でその考え方は異なっています。

CECL(USGAAP)の具体的な計算方法

CECLの具体的な計算方法はやや長くなりますので以下の別記事をご参照ください:

CECL(現在予想信用損失)で何が変わるのか。新会計基準(ASC326)での貸倒引当金の考え方と算定方法

 

終わりに

いかがだったでしょうか。

IFRS9は基準の通読からは読み取りづらい背景などがあることから、趣旨や変更点、GAAP差、開示インパクトなどから確実に理解していく必要があります。

最後になりましたが、上記以上に細部レベルでは多く改正があり、それらを語りつくすことはこの記事では避けています。
したがって、こちらでは大きな改正となった本質の理解、およびその関連条文番号を見つけるためのツールとして参照いただければ幸いです。

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引き続き、会計基準改正などはキャッチアップしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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