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2019年3月期 会社が将来儲かるか、自ら開示する制度が始まる!?税効果の開示と繰越欠損金とは。


はじめに ーポイントだけ押さえようー

「税効果会計の開示」、というと、経理や監査にとても深く関わっている方でなければピンとくるものはないはずです。

 

実際税効果会計は税務の理解+会計的な判断を伴うエリアのため、監査法人の若手クラスだと実務未経験であることが多く、ある程度の職位の人でないときちんと理解できていない人も多いのも事実です。

 

それほどまでにこの開示が対象としている「税効果会計」はマニアックでとっつきにくい分野なのですが、実際やろうとしていることはシンプルかつリーズナブルなものです。

 

 

2019年3月決算の有価証券報告書開示では、この税効果会計についていくつか改正がなされています(気になる方のために改正全容は後述します)。

このうち、「評価性引当額」関連の開示について今までになかった開示事項が追加されており、真面目に対応するとここは大きな意味を持ちうる開示になることから、変更の概要とそれがどんな意味を持つのか、ポイントを押さえていただければと思います。

 

税効果会計と評価性引当とは

結論:評価性引当は資産を減らすもの→利益が出ない可能性を示唆するものです

誤解を恐れずコンパクトにまとめると以下です。

 

結果:評価性引当とは資産価値の減少を表すものです。

原因:将来の利益(厳密には税務上の課税所得)が十分ではない可能性があります。

 

では分解していきましょう。

 

税効果会計のコンセプト:税効果会計でいう資産価値→将来減税効果とは?

税効果会計において、資産価値とは「将来の税額の減額効果」の一点に尽きます。

 

つまり、会計上は当期の損失だけれども税務上は当期損失(損金)とならずに将来の費用(損金)となるものが該当します。

例としては、固定資産の減損と税務上の減価償却費など、会計上は一時の費用として処理したとしても税務上は否認となり、税務と会計で差異が生じるものが対象です。

 

この差異はどうやって解消していくかというと、翌期以降の税務上の課税所得から費用(損金)として認めてもらうことで解消します。

 

 

これをつなげると、会計上の減損損失(一時の損失)は、計上年度の税務上損失として認められないため節税効果はないが、翌期以降の課税所得から償却費が認められることで税金の減額効果がある損失、になります。

 

ざっくり言えば、100億円の繰延税金資産が計上されている会社では、将来にわたって税金を減らす権利が100億円分ありますよ、という意味になります。

 

減税効果:本当に全額減税効果取れるんですか?

上記で減税効果について本当にさらっと記載しましたが、では本当に全ての会社で減税効果をとれるのでしょうか。

 

疑うべきは「翌期以降の課税所得」という点です。

 

 

この減税効果、もし将来の課税所得が赤字であれば「税金は発生しない」ので、そもそも減税効果はありません

つまり、繰延税金資産が計上できるかどうかの最も要なポイントは、将来の課税所得が十分に見込めているかどうか、という点になります。

 

ここは監査上も大変問題になりやすいところで、会社が100億円の減税効果がある、と主張している場合はこれを税率で割り戻した金額、ざっくり300億円~400憶円ほどは近い将来で稼ぐことができる、という主張をしているという意味にもなってしまうのです。

 

実際、将来の減税効果を得るに十分な課税所得が将来見込めない会社はたくさんあります。その場合はどのように会計処理するのでしょうか、そこで今回のトピックである「評価性引当」の登場です。

評価性引当:減税効果総額から、資産価値の減少を控除しましょう

日本の会計基準では、いったん全ての減税効果を「繰延税金資産」として認識したうえで、(将来の利益が見込めず)回収できない見込み部分を「評価性引当」として減額する、というステップを踏みます。

100億円の繰延税金資産を計上しましたが、将来の利益予測からすると70億円しか回収できなさそうなので、30億円は評価性引当として繰り入れました、という状態です。

(仕訳は(Dr.)繰延税金資産100億円/(Cr.)法人税等調整額100億円に、単純に逆仕訳(Dr.)法人税等調整額30億円/(Dr.)繰延税金資産30億円でOKです。)

 

新しく求められる開示とは

評価性引当に関する開示(定量+定性)

これまでも税効果注記において「評価性引当」は開示されていましたが、今回追加されたのは以下の2点です。

①定量情報:評価性引当のうち、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額を区分して記載

②定性情報:評価性引当額の変動の主な要因

定量情報が求められることで、これからは内部管理上「各一時差異についてはいつ解消可能で、繰越欠損がいつまでにいくら使用可能と見込んでいるか」、という情報を整えた決算資料が必要になってきます。今まではざっくりと繰延税金資産総額に対して評価性引当を計上していた会社も、それぞれの繰延税金資産に色をつける必要が出てきたということです。

定性情報は後述します。

繰越欠損金に関する開示(定量+定性)

①定量情報:繰越期限別の数値情報(減税効果総額、評価性引当の額、繰延税金資産の額)

②定性情報:繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由

定量情報は、期限別繰越欠損金の、金額だけであればアニュアルレポートなどで開示していた会社もあると思いますが、今回は各期日に対応した評価性引当を開示するようになります。

ここの定性情報について、企業が真面目に書いてくれれば大変有意義な開示になるはずですが、後述します。

読者として、どういうメッセージを受け取ればよいか?

まずいきなり出てきた「繰越欠損金」のおさらいをすると、繰越欠損金は税務上の損失を繰り越す性質のもので、平成30年度以降に生じたものは10年間の繰越が認められ、これを超えても解消できなかった場合は税務上切り捨てられてしまいます。

 

この繰越欠損金も将来の税金を減額させる効果があることから繰延税金資産になりますが、これに評価性引当金が計上される、ということは、その分は税務上使いきれずに切り捨てることになるよ、と言っていることを意味します。

 

結果、繰越欠損金に評価性引当が当たっているということは、将来税務上の減税効果を一部取りきれないという見積もりを前提として財務諸表を作成していることになります。

 

上記の4開示からはざっくり以下のメッセージを受け取ることができるでしょう。

1. 評価性(定量): そもそも評価性引当があるか、ある場合にはどの程度が繰越欠損金に当たっているか。たくさん税効果がある一方繰越欠損金も評価性引当もないような会社は、過去にも将来にも税務上赤字(ないし予想)にはなっていない会社。たくさんある場合には3の期限別情報をみて将来予測から情報を得る。

 

2. 評価性(定性): 増減があればコメントがうたれる。増減として想定されるのは、税務上の差異事態が大きく増減する場合、もしくは将来課税所得予測に大きな変動があった場合。後者が書かれていたら以下の繰越欠損金の注記と併せて注目。

 

3. 繰越欠損(定量): 注目すべきは何年後から評価性引当が当たっているか、そしていくらか。この金額を現在の税引前利益の水準と比べれば、会社がどれだけの利益を少なくともいつまで出せる予測をしているか、そして繰越欠損金を使用する事で将来どの期間まで税率負担が下がる予測がざっくりと把握することができます。

 

 

4. 繰越欠損(定性): ここに会社の将来所得予測に対する説明がのるので、要チェックです。タックスプランニングなのか、所得が見込まれているのか、会社ごとにどうやって繰越欠損金を回収する計画なのかがわかります。

 

実務者として、どういうメッセージを発信すればよいか?

もし繰越欠損金がある程度の金額あるならば、上記の受け手の求める情報を鑑みて開示する必要があります。

 

ただ、上記の開示全てに「重要性」の規定があり、重要でない場合は開示不要です。

プロネクサスの開示例は会計基準の趣旨を鑑みて具体的な記載は避けられていたので、宝印刷の開示例が一旦参考になるのでしょう。

 

昨今の円安と好景気で日系企業の繰越欠損金や評価性引当などはリーマンショックあたりと比較するととても少なくなっており、多くの企業でこれを開示せずに済むケースがあるでしょう。

 

一方海外子会社の欠損金に重要性がある場合や、国内連結納税制度を用いていない場合など、追加で情報を集めないと開示が出来ない、コメントが打てないケースも考えられるので、事前の情報収集を行い監査法人と協議することが重要になってきます。

終わりに - おまけ : 税効果改正の全体像 –

いかがでしたでしょうか。

ご参考までに、今回の改正に関する変更要点を以下に列挙します。(本記事でフォーカスを当てたのは④~⑦です)

①は連結には関係なく、②は将来的に影響が出てくるでしょうが改正と同時に処理を変えることは考えにくいので当期の重要度は低いと考えています。③は第1四半期からすでに振り替わってますが、バランスシートにおいて投資その他の区分に統一計上になっています。

 

  1. 会計処理:個別財務諸表における子会社株式等の将来加算一時差異 (適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第8項)
  2. 会計処理:分類1に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第18項)
  3. 表示:すべての繰延税金資産負債勘定を非流動区分へ(会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正」第2項)
  4. 注記:評価性引当額の内訳に関する数値情報(会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正」第4項(注8)(1))
  5. 注記:評価性引当額の内訳に関する定性的な情報(会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正」第4項 (注8)(2))
  6. 注記:繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報(会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正」第5項(注9)(1))
  7. 注記:繰越欠損金に関する定性的な情報(会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正」第5項(注9)(2))

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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