日本の監査法人が儲からない理由、アメリカのアカウンティングファームが儲かる理由

今回は日本の監査法人と、アメリカのアカウンティングファームの利益体質について考察します。

私自身日本とアメリカ双方でプロジェクト管理をし、実際にクライアントとの報酬交渉をしましたが、こんなに違うものか、と驚いた要素がいくつかありました。

業界コラムのようなものなのでご興味は非常に分かれそうですが、業界の方向けと割り切って早速以下で紹介していきます。

ポイント1: そもそも報酬のベースが違う

いきなり元も子もないですが、やはりアメリカの報酬が日本に比べて割高だ、ということは事実としてあります。
その前提として大きいのは、Tier2と呼ばれる法人たちが安価な案件の受け皿として機能しており、被監査企業も選択権があるため、Big4は報酬交渉時に基本的に強気です。
地域事情ももちろんあるでしょうが、私の担当している地域では「利益率低いなら値上げしよう、その結果契約されなくてもそれは仕方がない。」というスタンスで動けるパートナーが日本に比べて多いです。
加えて、アメリカのインフレ事情があります。日本ではあまりなじみがありませんでしたが、アメリカでは基本毎年インフレ補正+個人評価による昇給があります。これが無条件で報酬交渉に織り込まれ、前期と何も条件に変更がない場合は「前年報酬にインフレ補正2 – 5%」程度を上乗せした見積もりを提出します。
日本で報酬交渉をしていたころは5%の値上げをしてもらうためにタイムレポート実績を引っ張り出してこねくり回してクライアントに交渉し、それでも「このエリアは増えるかもしれないけど逆にこちらは今年減らせるはずだから2%増額しか受け入れられません」なんていう交渉が基本でした。
アメリカではこの5%はもらえる前提で、いかに他のものももらいに行くかという勝負です。
それくらい、日本では監査報酬が「固定費」としてとらえられ、アメリカでは「物価は上がるもの」ととらえられている心理的な差は大きいです。

ポイント2: 実はテクノロジーによって地域差価格差を利用したビジネスモデルに移行している

こちらが本稿の肝です。
もちろん上記の通り「報酬が高い=そもそも売上が高い」という前提はあるのですが、それに加えて実は「コストは日本より安い」というビジネスモデルなのです。
その理由は、インドにあるオフィスによるものです。現在アメリカの各Big4では、インドに別法人を設立し、まるでUSの組織の一員であるかのような働き方を現地からさせていて、監査チームによりますが総監査時間の20%~50%はインドチームによるものになっています。
これによるポイントは以下の3点です:
Pont1: 同じ役職で比較すると請求単価は3 – 4分の1。
驚いたのは彼らの請求単価の安さです。USに所属する人間のタイムチャージの数分の1の請求レートで回しており、つまり本来USでやるはずだった作業をインドチームに回せば、それだけでコストカットによる利益が出ます。
まるで打ち出の小づちのような状態です。
Point2: 物価水準の違いにより安いだけなので、インドチームは安くこき使われているわけではなく、現地で満足のいく暮らしができている。
ここがポイントで、Win-Winの関係なんです。誰も低単価で疲弊していない、というところが非常に優れた制度になっています。
あとで述べますが、同じ国の中でレイヤーを分けてしまうと必ず疲弊するレイヤーが生まれてしまうので、地域差を利用するのは非常に建設的です。
Point3: インド人はみな現地のCPAで、単純作業だけではなく自分たちで考えて行動可能。
インド法人のメンバーはそれぞれ現地でCPA有資格者たちです。クライアントとのコミュニケーションなど直接関与しないことが多いため、もちろんアメリカ人がやるのとまったく同じ成果は出ないですが、しっかりあるべきを考えて虚偽表示なんかんも見つけてきますし、前期調書が無くても何とか他チームや法人フォームを使って対応してきます。
不能率が多少でても、アメリカ人の倍の時間で終わるならそちらのほうが安いという状況です。単価が安すぎて、多少の不能率を見越した予算組みができるのは非常に気持ちの余裕があります。
結果、利益が出てアメリカ人のパートナーはとんでもない報酬をもらっています。
日米の年収は以下の記事をどうぞ:

日本の監査法人が同じ戦略を取れない理由

上記のような方法があるのであれば、「日本の監査法人も取り入れれば」というのが普通の発想ですが、これには以下の大きな障壁があります。

言語の壁

例え監査チームメンバーが英語堪能だとしても、クライアントの提出データや証憑が日本語のため、海外の安価な人件費の場所へ単純委託できません。結果、監査の単純作業のアウトソース先は日本人にならざるを得ないです。

上記の結果、地域価格差がない委託になる

日本国内で資格を持たない人を集めて似たような委託ビジネスを始めようとしている法人もあるようです。ただ、そもそも日本の中で有資格者と無資格者の単価の差がそこまで大きくなく、同じ物価水準の中で高価格作業者と低価格作業者を分けるというのは、低価格作業者の疲弊につながります。
また、そこまで価格のメリハリをつけることができないなら、分ける意味が単に「会計士が単純作業をやりたくないから」という点のみになり、コストカットで利益を生み出すという目的は達成できません。

無資格者への委託になる。

価格差をつける以上有資格者と無資格者で分けて、無資格者へ単純作業を委託というビジネスモデルになります。その場合無資格者への委託では精緻な作業指示書が必要で、その枠内でしか対応できないので、イレギュラーが出た際に結局有資格者のフォローが必要になることが見込まれます
委託された作業を完結できないのであれば自分たちでやったほうが早いという話がしばらくは出ることが見込まれ、現地で検討・シニアレビュー・マネージャーレビュー・フォローアップまで終わらせてくれるインドチームとは成果物の期待値がそもそも違います。

まとめ

上記の結果、USでは本当に付加価値を出せる、クライアントコミュニケーションや、踏み込んだ指導機能の発揮、より高度な判断を要する箇所にしか人材を投入しません。
それにより、USの人間は専門性とマネジメント力を伸ばすことができ、単純作業削減による長時間労働の改善がされ、良い好循環になっています。
日本でこのような好循環が出るにはまだしばらく時間がかかりそうで、各法人が単純作業の外部委託やIT自動化投資などいろいろ実施していますがまだどこでも目立った成果が出ていない状況です。
東芝の不正会計以降日本の監査業界は長い過渡期に突入していますが、この出口はもう少し先になりそうで、しばらくは踏ん張りどころになるでしょう。
日本では早くマネージャーになり、手を動かさなくてよいポジションになることが一番疲弊を防げます・・・そしてのちの世代のために改革していくことが我々の使命ですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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