今回からアメリカでの働き方・仕事に関連する話を紹介していきます。
「一度は海外で働いてみたい」
「どうせならアジアではなくアメリカで働いてみたい」
と興味はあっても、「実際どんなことをやっているの?」というのはなかなか情報がないのが実情です。
今回は、「アメリカではどんな人と働き、どんな仕事をしているのか」、現在アメリカのBig4で働いている筆者より最新の情報を紹介します。
アメリカで働く会計士(日本人)はどんな仕事をしている?
さて、アメリカで会計士として働く場合もちろんいろいろと選択肢がありますが、「Big4」の「Audit(監査部門)」を念頭に解説していきます。
(そもそも監査とは?Big4とは?という方はまずこちらをご参照ください:公認会計士のキャリア・年収とは?日米差から明らかにします。)
やっていることは日本の監査法人と変わりはありません。
アメリカであっても、会計士は会計監査(内部統制監査含む)を行い、それにより収益を上げていきます。
一方、日本人がアメリカのBig4働く場合、大きく2つの分類があり、入口の段階で以下のように分かれます:
①日系企業対応がメインのケース
②アメリカのクライアント全般を対応するケース
では以下でそれぞれ見ていきましょう。
日系企業対応がメインのケース
日系企業対応とは
日系企業対応というと、つまり日本に親会社がある会社の子会社(ないし投資先)の監査対応を意味します。
例えば、三菱商事であればニューヨークに「米国三菱商事会社」という子会社がありますし、トヨタであればインディアナに「Toyota Motor Manufacturing, Indiana, Inc.」という製造子会社があります。
日系監査対応というと、これらのような日系企業の子会社の監査を対応(つまり多くは非上場会社対応)するイメージです。
仕事の契約は大きく以下の2つに分けることができます:
①親会社監査チームからの依頼で対応する監査対応
②親会社の依頼で対応する監査対応
①は、親会社の監査法人(=つまり日本のBig4)側でその子会社が重要だと考えられており、連結監査のために子会社チーム(=アメリカのBig4)へ依頼しているケースです。
親会社監査人とのコミュニケーションだけでなく、時には親会社と子会社のコミュニケーションをサポートし、内部のレポーティングを監査していきます。
②は親会社の依頼です。この背景には、例えば「各子会社は年に一度現地の監査法人による監査報告を入手しなければならない」という親会社のルール(内部統制)があることが多いです。この場合はレポーティングパッケージ監査ではなく、別途個別財務諸表を作成して対応することが多くなります。
なぜ日本人は日系企業対応がメインになる?
さて、まずは日系企業対応メインのケースから紹介しますが、その理由はアメリカで働いている日本人会計士の大部分がこちらに当てはまるため、です。
地域により力の入れ具合はありますが、Big4は日系企業のために日本語を使える人を別途集めて対応しています(韓国、中国企業向けの部署も地域によってはあります)。
理由としては、日系企業の内部資料、特に親会社からの承認資料などが日本語で運用されていることが多く、日本語が読めないと監査ができないことがあるためです。
反面、中国や韓国企業では英語で作成されていることも多く日系企業ほど特殊ではないようです。
つまり、日本語が分かる人がアメリカの監査現場に多くいないため、このような部署から重宝されることになります。
日系はどんな人と働くか①:対クライアント
さて、先ほど紹介した通りアメリカの日系クライアントというとアメリカにある日本企業子会社です。
その多くは、日本の親会社から駐在員ないしトレーニーと呼ばれる人たちが派遣され、現地の会社のマネジメントを行っています。
「CEOはローカルのアメリカ人に任せる」といった会社ももちろんありますが、そのような場合はCFOが日本人であることが多いです。
一方、セールスマンや経理・人事・総務など実務を担当する方はアメリカ人や他のアジア人であることが多く、必ずしも日本語が使える方ではありません。
日系サービスチームで働く会計士は、このように日本人マネジメントとローカル担当者の双方としっかり信頼関係を築く必要があります。
・マネジメントはほとんど日本人
・実務担当はだいたい日本人ではない
・資料が日本語で出てきてしまうことがしばしば
日系はどんな人と働くか②:対社内
社内(Big4)はどうなっているかというと、「日系サービスグループ」が社内にある場合は、そのメンバーは入社時に日本語の面接+英語の面接を通ってきているため、全員日本語での読み書きがある程度できます。
ただこのメンバーは、必ずしも日本人とは限りません。
私の部下は日本人の子もいますが、多いのは中国か韓国出身の方です。
(つまり母国語+日本語+英語のトリリンガル!)
ただそれでも日本語を使えるメンバーはクライアント数に比して少ないため、普段からアメリカ人スタッフももちろんアサインします。
また、後日別途記事にしますが、インドオフィスも同じ「チーム」として働いているため、彼らも重要なスタッフになります。
もちろんアメリカ人とインド人は日本語が使えないので、コミュニケーションは英語です。
また、上司(パートナー・ディレクター)は基本アメリカ人になり、日本語は全く伝わりません。
したがって、社内のメールや調書、ミーティング、コミュニケーションなんかは、すぐに上司へ共有できるようもちろん英語でなされます。
・上司は基本アメリカ人
・メインスタッフは日本語がそれなりに使える外国人か、日本人だが、数が少ないのでアメリカ人もアサインする。
・インドチームも重要なチームメイト
・会話は日本人だけの時は日本語だが、他のアジア国の人がいたりするので日本人同士でも英語
日系で必要な語学力
日本人としてBig4に申し込むとき、日系を希望するのかそうでないかで要求が変わります。
日系に携わるのであれば、実はまず日本語の読み書きが能力が求められます。
日本語がネイティブだとわかれば、英語の能力を見ていく、というケースで弊社は電話面接を進めています。
このように、面談は日本語+英語でなされるため、程度の差はオフィスによってさまざまですが、いずれも電話面談時に「だめだな」と思われないレベルである必要があります(この第一次電話面談、弊社では中国出身の若手スタッフにお願いしています)。
地理的な話をすると、そもそも地理的に日本人が多いロサンゼルスやニューヨークオフィスには巨大な日系サービス部門があることが多く、業務での日本語割合も非常に高いです(責任者であるパートナーまで日本人、なんてこともあります)。
このあたりはメリットでもデメリットでもありますね、しっかりアメリカの文化でやっていきたい場合は適度にローカルの仕事に入ることもよい経験になります。
もしアメリカの大学を卒業する予定の方で、日系グループに入りたくない、という場合は、面接時の強い主張と高度な英語力が必要です。
・基本は日本語も英語もいずれもビジネスで使えるレベルが求められる。
・ロスやNYなどではほぼ日本語環境になることもしばしば。
アメリカのクライアント全般を対応するケース
日系のサービスグループがないオフィスであれば日本人もこちらで働くことになります。また、仮に日系サービスグループがあっても入社時に強く希望を出すことでこちらの入社は可能です。
日系の対応をしない場合は、通常のアメリカ人スタッフと全く同じ扱いになります。
したがって、日本語を使えるということがメリットにならず、英語がネイティブではないということがデメリットになる、というなかなか過酷な環境での戦いです。
一方、こちらの最大の特徴はPCAOB監査、つまり最も厳しい監査規制環境下でアメリカの上場企業監査を行う、ということにあります。
最先端の監査ができるだけでなく、日系だと得られない開示書類対応ができます。
日系でも開示書類を別途作るケースもありますが、基本は「完全子会社=非上場」なので、グループ内レポーティングパッケージ対応がメインになってしまい、10Kや10Qといった膨大な開示対応などの経験ができません。PCAOBチームに入ることで開示の経験が得られる、というのはメリットになりうるでしょう。
チームやクライアントはとても優秀なアメリカ人で、賢いだけでなく猛烈に働きますので、残っていくこと、出世していくことはとてつもない競争環境になります。しっかり覚悟してチャレンジすることが重要です。
・日本人であれば、アメリカの大学卒であってもいったんは日系サービスチームへ声がかかるため、もしPCAOB希望なら強い主張が必要。
・競争環境はとてつもないが、得られる経験は大きい。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
アメリカで働く日本人会計士のイメージを、少しでも持ってもらえると幸いです。
次回からも、しばらくアメリカで働く日本人会計士に関連して解説していきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。