はじめに
今回は公認会計士の労働環境についてです。
公認会計士の働き方について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
昔のイメージから「激務」というイメージがあるかもしれませんが、最近は少し状況が変わってきています。
では、日本とアメリカの最新動向を踏まえ、見ていきましょう。
会計士は激務なのか
会計士は激務なのか、という疑問ですが、結論としては年中忙しいというよりは、季節的に忙しいときとそうでないときがある、という表現が適切です。
業界ではよく「繁忙期」ということばが使われ、おおむね共通認識として3~5月ごろが忙しい時期になっています。
では、具体的に見ていきましょう。
監査という仕事
まずは監査という仕事について簡単に説明したいと思います。
会計士が行う「監査」には、大きく以下の二つが含まれます:
1.財務諸表監査:企業の実際の決算数値を検証する仕事
2.内部統制監査:企業の業務プロセスが適切か検証する仕事
このうち、会計士の繁忙期を生み出しているのは「財務諸表監査」です。
なぜなら、財務諸表監査は「締め切りがタイト」であり、かつ「会社が締めた後でないとできないことが多い」ためです。
具体的なイメージのために、3月末決算の会社を想定してください。
上記の図のように、まず締め切りは実務的に4月末の決算短信発表となっているケースが多いです。
で、「監査」という仕事はチェックですから、まず会社が決算を完成させ、その後監査する、という形になってしまいます(図の上半分:会社 下半分:監査)。
極端な話をすると、会社が数字を作って初めて我々監査人が仕事に着手できる部分が結構ある、ということです。
このような背景から、4月中旬~末にかけては構造上監査人は忙しくなってしまいます。
これが、監査という仕事に「繁忙期」があるゆえんです。
日本の監査法人の定時
一方で、平常運転時はどうなのか見ていきましょう。
まず日本の監査法人の定時時間は、9時30分~17時30分(昼休憩1時間、実働7時間)というのが一般的です。
多くの日系企業で8時間労働が定時となっているのに対し、7時間労働というのは非常に恵まれていますね。
したがって、もし定時で帰れるのならばとてもホワイト企業だと言えるのではないでしょうか。
ただ、定時は定時だとして、実際にどんな働き方をしているのかは気になりますよね。
次以降で、その実際の働き方を見ていきましょう。
会計士の働き方(~2016年頃まで)
2016年頃、実は会計士の働き方が問題視され、具体的に当局からの注意などを受けていた年です。
では問題視されていた働き方はどのようなものだったのかというと、文字通り青天井でした。
実際4月の繁忙期はというと、土曜日全出勤、日曜日も働くことになり20連勤等になっているメンバーもちらほら。
朝は9時半からと遅い分、夜はだいたい終電まで、ひどい場合はチーム全体でクライアントの近くでホテル生活となり、深夜に至るケースもありました(ホテル代は経費精算可です)。
さらに帰れたとしても、貸与されているノートPCは家でも使えてしまうので・・・青天井ですね。
こうなると、平日5時間残業×20日となり、平日だけで100時間残業になってしまいます。(ただ、7時間労働計算なので、8時間労働に直すと80時間残業です)
加えて、土曜日+場合によっては日曜日も、となると、なかなか激務だなと言えます。
8時間労働で計算しても、100時間超は残業するイメージですね。
で、このような働き方をするのは4月だけかと思いきや、例えば12月決算など決算期ズレの会社を担当するようになるとその分増えますので、年間の残業時間は600時間を優に超えてくる人がかなりたくさんいました。
会計士の働き方(最新版)
現在はこのような働き方ができない仕組みに、業界全体が移行しています。
具体的には、4大監査法人それぞれで以下のようなPCのアクセス制限を実行しています:
1. 貸与ノートPCの起動可能時間を、早朝~夜8時ごろまでに限定し、
2. かつ土日のPC起動を不可にする。
つまり、夜8時を過ぎると自動でPCがシャットダウンされてしまうようになっている、ということです。
繁忙期の対応は法人間でばらつきがあるようですが、繁忙期も例外承認をかなり厳しく設定し、基本的には上記の稼働時間の中での対応を目指す方向のようです。(土曜日のアクセス制限は比較的簡単に解除されているようです。)
もちろん業務量が同じで労働時間を減らすだけでは立ち行かないので、業務効率化やITを駆使した自動化に各ファームが全力で取り組んでいる、というのが最新の現状です。
いかがでしょうか、夜8時までしかどうやっても働けない、というのであればそこまで激務ではないという印象を持たれる方が多いのではないでしょうか。
このように業界が変わっていっていますので、限られた時間でしっかりと成果を出すようなタイプの人間が評価されるように変わってきています。
アメリカの会計士の働き方
一方、アメリカの監査法人の働き方はどうなのかというと、このようなアクセス制限はなく、入る見込みもありません。
したがって、繁忙期(こちらは12月決算なので1月~が繁忙期)は従来型の日本と同じように、チーム一丸となって朝から晩まで、土日も働くというスタイルです。
一方で、夏(閑散期)は本当に早く仕事を切り上げます。
私のまわりのアメリカ人は、夏は朝8時ごろから働き、5時前には帰宅して家族と過ごす、というスタイルがメジャーなようです。
さらに、毎週金曜日は4時頃にオフィスをでて飲みに行くメンバーがとても多いです。(繁忙期も金曜日は早く帰ろう、という雰囲気です)
かなり裁量の余地があるスタイルで、日本人からすると「そんなんで大丈夫?」という気がするかもしれません。
ただこのような働き方の背景には、
・日本のように残業手当があるわけではなく、
・かつ結果を出せなければすぐにクビになる、
というアメリカの労使関係があり、自己責任が前提だからこそできる働き方だと言えるでしょう。
年間のイメージと、季節労働によるメリットとデメリット
さて、今まで繁忙期の働き方を紹介してきました。
年間を通じてみると、以下の表のようなイメージになります。
4月と5月がとても忙しい反面、青色で記載している8月、12月、6月(~7月1週目)は定時帰宅はもちろん、有給休暇の取得や振り替え休暇(休日出勤分)の取得がかなり自由にできます。
つまり、季節労働者として忙しい時期がある反面休みも取りやすいので、以下のようなメリットとデメリットがあります:
メリット:比較的長期(2週間ほど)の休暇を取り、海外旅行などに行くことが可能。また、6月などは世間の休暇ではないので旅費も安い。
デメリット:毎年4月と5月は休日返上で働くことは避けられない。
個人的にはこのスタイルはとても気に入っていて、特に社会人になってからも2週間などのまとまった休みが取れるというのは監査法人の隠れた大きな魅力かと思います。
(ちなみにこのサイトから監査法人はじめ、プロフェッショナルファームの求人がいろいろ見れます。:弁護士・公認会計士・税理士の求人・転職なら【MS-Japan】)
おわりに
いかがでしょうか。
この記事を通して、会計士業界が変化のさなかにあり、労働環境は確実に良い方向に向かっている、ということを理解してもらえたらうれしいです。
働き方改革への反論として「働き方改革なんていらない。自分は擦り切れるまで働いて早く成長したいんだ」という意見もあると思います。
ただそういう場合も、早朝はシステム制限解除されているので朝始業時間より早く来れば労働時間は確保できますし、例えば本を使った調べものを夜帰宅後にまとめてやる、などの工夫で乗り切ることは可能です。
こちらの記事を読んで会計士業界に興味をお持ちの方は、以下の記事もきっと参考になるはずですので是非。
最後までお読みいただきありがとうございました。