今回は各会計基準において認められている、COVID-19の状況下での軽減規定をまとめます。
先日以下のような記事が日経で紹介されていました。
柔軟対応が可能ととれる発表は確かにされているのですが、実務に当たる際にはしっかり理解し、誤用の無いように運用したいところ。
以下でソースを示しながらポイントを紹介します。
日本基準の会計上の柔軟対応
さて日本基準では、以下の3本が4月28日現在の柔軟対応の柱になっています。
1. 銀行の引当への追加指針対応
まず、「銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当について」というガイダンスが、先日公認会計士協会より公表された「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」にて公表されています。
これは柔軟化を明らかに認める指針というより、「原則通りコロナの影響も将来見込みに織り込む必要があるけれども、企業が一定の過程を置いて見積もりを実施したものは明らかに不合理でなければ大丈夫ですよ」というメッセージです。
さらに、銀行が事業者支援のために貸付条件変更をした際の債権区分の考え方について「検査時は民間の判断を尊重する」ということを強調しており、金融機関が支払い延期措置等を取りやすいよう配慮がなされています。
これにより支払い猶予が貸倒引当の増額に必ずしも直結しなくなると考えられますが、銀行としてはこれを契機に「本当は引当を積み増したかった債権」に積んでくるようなケースも考えられます。
数字は銀行の判断次第、監査人はしっかり仮定を検証しないといけないということに変わりはありません。
2. 特別損失の追加指針
同じく「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」より、特別損失開示の追加ガイダンスです。以下で詳しく紹介しているのでご参照ください。
3. 見積もりにおける追加指針
企業会計基準委員会(ASBJ)より公表された、新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)が、現在の先行きが読めない状況下での会計上の見積もりについてガイダンスを提供しています。
最初に述べた「銀行の引当」も、結局はこの声明を参照しているので、実質日本の会計基準としてはこれが一番重要なガイダンスといえます。
内容についてかなりかみ砕くと、先ほどの再掲ですが「原則通りコロナの影響も将来見込みに織り込む必要があるけれども、企業が一定の過程を置いて見積もりを実施したものは明らかに不合理でなければ大丈夫ですよ」というもので、結局は何らかの仮定をおいてこの状況変化を見積もりに織り込むことが必要になります。
米国会計基準の会計上の柔軟対応
次に米国会計基準では、公式サイトにCOVID-19のページを作成してコメントを出しています。
特に多くの企業に当てはまると考えられるコメントが、リース会計についてです。
リース(ASC842):支払い猶予や賃料減額時
借り手としてリース料の減免や支払い猶予を受けた場合、本来リースの条件変更となりリース負債の再計算をしないといけないはずですが、今回のCOVID-19の影響による一時的なものである場合はリースの契約条件変更にあたらず再計算は必要ない、という対応が認められています。
リースは別途コメントページが作られているので、実務に当たられる方はこちらをご参照ください。
その他
リース以外は、デリバティブ、利息収入、公正価値測定などについてもコメントがなされています。
なお、上記のような個別の会計処理の対応だけではなく、新リース会計基準の適用時期をさらに一年後ろ倒しにする決定もなされました(上場企業は適用済みのため、非上場企業のみ)。
リース基準の延期について「さらに」といったのは、2019年10月にすでに一年後ろ倒しになったばかりだったためです。適用時期等については以下で詳しく解説してます。
IFRSの会計上の柔軟対応
IFRSでは次の2本が4月28日時点での柔軟対応の柱になっています。
1. 貸付金評価 (IFRS9)
概要として、今のIFRS(IFRS9)では原則として債権の信用区分グループの変更が必要になり貸倒引当の再見積もりが必要になりますが、COVID-19の影響で貸付先に対して返済猶予を提供する場合はこの信用区分を自動的に引き下げる必要はないとコメントしています。
1. その返済猶予が貸付先の倒産を示唆するものなのか、
2. それとも数か月後に経済活動が再開されたらきちんとキャッシュが回るようになるのか
という観点での検討が重要になります。IFRS9の債権評価の考え方・信用区分については以下をご参照。
2. リース: 支払い猶予や賃料減額時 (IFRS16)
こちらでは、支払い条件の変更がリース契約の変更に当たるか、などのガイダンスが提供されていました。
そして4月24日において、さらにCOVID-19に関連した賃料減免について、そもそもリースの条件変更であるかどうかの評価を免除することができるよう変更が提案されています。これにより、借手が賃料減免を受けた場合に、この免除規定を用いてリースの条件変更ではないものとして再計算をしないで済む、という実務上の配慮がなされています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
3つの会計基準が同時に必要になる方はそれほど多くないかと思いますが、もうしばらくこの経済環境に対応していかないといけなさそうなので、一度ここでまとめました。引き続きフォローアップしていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。