2020年決算ルール続報 コロナの影響を予測して開示が必要!

コロナ関係の続報です。
先日ASBJより公表された追加情報注記の留意点と、会計士協会より公表された「監査上の留意事項その5」をフォローしていきます。

ASBJからの追加情報注記の要請

ASBJより追加情報の開示要請があったと日経報道がありました。

企業会計基準委、コロナ収束時期の開示徹底を要請
2020/5/11 21:00

日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)は11日に会合を開き、企業が新型コロナウイルスの収束時期をいつと仮定するかについて、決算資料での開示徹底が必要との見解を示した。足元で進む3月期企業の決算発表を受け「開示が今後十分に行われないのではないかとの意見が聞かれている」とした。ASBJは4月、固定資産の減損処理などを判断する際に、企業自らが新型コロナの影響について「一定の仮定を置き」見積もる必要があるとの見解を示している。新型コロナの影響が翌期以降から発生する場合でも、仮定とする収束時期の開示が強く望まれるとした。

さて、これが結局何を求めているものなのか、以下で見ていきましょう。

前提:追加情報注記

さて、上記で「仮定とする収束時期の開示が強く望まれる」と記載ありましたが、これは具体的にどの開示ルールによるものなのでしょうか。
答えは、「追加情報注記」というものです。
用語の説明:追加情報とは
財務諸表等規則第8条の5(追加情報)この規則において特に定める注記 のほか、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に 関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない。
とされ、金融商品取引法(つまり有価証券報告書)にて求められている注記です。
なお、他の規則等でも同様の取扱いがなされています(連結財務諸表規則第 15 条、中間連結財務諸表規則第 13 条、中間財務諸表等規則第6条参照)。
注意として、後述しますが、今回は会社法にも関係してきます。
実務家の方は、財規だけでなく会計士協会の実務指針を読んでおくとよいでしょう。

具体的に求められる開示

さて、では「追加情報」として具体的にどのような場合に、どんな情報を開示することになるのか見ていきましょう。
ASBJの公表資料より一部抜粋しますが、今回のポイントは以下の点に集約されます:
「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った 結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる。
どんな場合に開示が必要?
会計上の見積もりがあり、かつそれが当期重要、もしくは翌期に重要な影響を及ぼす可能性がある場合。
どんな開示が必要?
新型コロナウィルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定の情報。
さて、お分かりいただけるかと思いますが、まじめにこの文章をとらえるとほぼすべての企業で開示を求める、という趣旨になります。今回のコロナが事業にまったく影響なく、かつそれが会計上の見積もり(貸倒引当金、在庫評価、固定資産およびのれん減損など)に重要な影響を及ぼさなかった会社などごくわずかなはずです。

開示によるメリット

この開示、今までの日本の有報開示の文化からすると開示したくないと思われる経理の方が多いのではと思いますが、実は今回は開示することでヘッジできるリスクがあります
コロナの影響を適切に見積もっていたか、というのはのはすべての経理担当者・経営者にとって頭が痛い問題でしょう。
想定される経理上のリスクとして最も大きなものは、例えばコロナの影響が予想よりもはるかに長くなってしまい、振り返ってみたときに2020年の3月末の決算の段階で本来減損すべきところ、「見積もりが誤っていたのではという追及」が来ることです。
この点4月10日にASBJより公表されている“新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)”では、以下のように「仮定が明らかに不合理でなければ」事後的な乖離は誤謬(ごびゅう:虚偽表示のこと)にはあたらないと明確に定義しています。
企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる 。
したがって現時点で大事なことは、
今期決算で使用した「一定の仮定」を今期開示してしまい、監査法人監査及び株主総会承認を受けてしまい後から文句を言われないようにする、ということです。
一定の仮定というとかなり会社によって表現の濃淡は出てくるでしょうね。実店舗なのかインターネットなのか、海外の製造工場が動いているのか、など。
(例:本国の緊急事態宣言は2020年6月ごろに解消されるものの、世界的なパンデミックは2021年3月ごろまで継続し、国内及び海外の需要が正常化するのは2021年4月以降、など)

求められる開示資料

さて、すでに「追加情報」の定義は紹介しましたが、これは原則として財規で求められているもので、インパクトは有価証券報告書開示で出てくるものです。

計算書類の根拠条文である会社計算規則の中には、「追加情報」という文言はありません。
しいて言うなら、以下の5で記載のある「その他」に入ってくるのでしょう。

会社計算規則第101条:重要な会計方針に係る事項に関する注記は、会計方針に関する次に掲げる事項とする。
1 資産の評価基準及び評価方法
2 固定資産の減価償却の方法
3 引当金の計上方法
4 収益及び費用の計上基準
5 その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項

一方で上記でも少し触れましたが、株主総会でこの仮定を既成事実化してしまうためにも、計算書類にも追記してしまうほうが会社のリスクは実は軽減される可能性がありますので、担当の監査法人と慎重にご相談ください。

会計士協会より – 監査上の留意事項その5

さて、話は変わり、協会からの監査上の留意事項もさらっと触れます。ついにその5まででました。
内容は以下の二点です。

除外事項付き意見(監査範囲の制約)に関する留意事項

海外子会社の棚卸などができないケースなどで、一部監査手続きが実施できないまま監査を終えなければならないケース。原則どおり、影響が大きければ不表明になってしまいます。
この際、意見に除外がつくことでの会社法や上場廃止ルールとの兼ね合いがまとめられていて、文例もありわかりやすいので、該当してしまった監査チーム・経理側は目を通すことをお勧めします。

経営者確認書に関する留意事項

経営者確認書へのコロナの記載や、経営者確認書の実物受け渡しの考慮事項など、監査人は全員目を通すべき内容が記載されています。

おわりに

もう2020年3月期決算もかなり収束している感がありますが、まだまだ真っただ中、という会社もあるでしょう。
こんな状況だからこそ、引き続き最新情報をフォローし後々問題にならないようきちんと処理しておきたいですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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